呼吸器系感染症は一般に冬に流行することから、この冬に第 6 波が来た場合、第 5 波のようにならないよう、これまでの取り組みを総括し、良い点を伸ばし、不足した点を整理し早急に体制づくりを始めることを心から訴える次第です。
私どもは、これまで 3 度にわたって新型コロナウイルス感染対策についての要望を県知事および県議会関係者、横浜市と川崎市の市長および市議会関係者に提案してまいりました。その後の事態の経過を踏まえ、今回は相模原市長および市議会関係者を含めて、新型コロナウイルスだけでなく、今後想定される感染症の発生に対して対応できるよう、以下の 6 点について提案します。
早急に取り組みを開始し体制を強化されることを要望いたします。
1. PCR 検査体制の充実を
PCR 検査は、無症状感染者が感染を広げる新型コロナウイルス感染症の感染源対策としては、防疫上きわめて重要な検査です。しかし、日本ではいまだに国際的にみても検査数はきわめて少ない状態が続いています。感染症対策は主として感染源対策、経路対策、感受性対策がありますが、ワクチン接種が進んだ国でも感染経路対策をしなければ感染が拡大することは明らかです。
とくに、感染源対策の検査・追跡・保護・隔離は、今後一層の強化が必要です。
第5波で感染者や死者を低く抑えている自治体の対策を見ると、陽性者が出たら学校であれば全校を対象にする広く網をかけた PCR 検査を実施しています。こうした感染源対策と同時に死者ゼロを達成した墨田区の取り組みでは、「早期に検査・診断ができる環境を整備したことが、スムーズな入院調整になった。基本的に発症から 1 日での検体の採取徹底」がカギと述べています。
このように PCR 検査の拡充(先の要望は1日5万件)は今後の感染症対策の要となるものです。
1)PCR 検査体制をつくる場合、第 1 には、「いつでも、誰でも、何度でも」の立場で、民間検査機関も活用し、体制を強化すること。第 2 には、従来の枠にとらわれず大胆かつ大規模に一気に実施する体制が必要です。そのためには全自動 PCR 検査装置などを地方衛生研究所に導入するとともに、PCR 検査や感染症の専門家の養成が重要です。この 20 年間に県や市の感染症部門の縮小統合が進められましたが、これらの専門部署を従来の体制に戻し、スピードアップできるようにし、また官学が連携してすべての陽性者のウイルスのゲノム解析をすることも必要です。常に変異株を把握していくことは、今後の流行を低く抑える上できわめて重要です。
2)感染集積地(エピセンター)について、広く無料PCR検査を実施し、火種をなくす取り組みを戦略的に進め、感染拡大の芽を摘み取ることが必要です。これを実施しないと、感染爆発を起こし、また同じことが繰り返されます。
3)医療機関、高齢者施設、事業所、学校、保育園、学童クラブなどが実施する定期集団検査をおこなう体制と支援も必要です。
4)こうした検査を進めるために、全自動PCR検査装置などを導入して、広範囲に短時間で広く実施できる体制が求められます。
2.コロナ専門病院拡充と後遺症対策の専門病院の設立を
第5波では新型コロナウイルスの感染爆発により、多くの医療機関で病床が逼迫し、多くの自宅療養者を出し、医療崩壊が先進国といわれるこの日本で、神奈川県で起きました。感染症対策だけでなく、県民の衛生と健康を守る砦としての病院の拡充とそのスタッフの充実を図ることが何より重要となっています。横浜市の山中竹春市長は9月17日の定例会見で、「コロナ専門病院」を11月中に市内に開院する考えを示しました。専門病院の内容はまだ明らかではありませんが、発熱外来だけでなくアフターケアとなる後遺症対策の外来も設けていただきたいと思います。コロナ専門病院も、横浜市の1か所だけでなく数か所、川崎市、横須賀市、相模原市、県央、県西の地域への設置を要望します。それに加え、従来からある各種病気に対する専門病院を充実させ、県民や市民の最後の砦となれる医療制度の再構築を要望いたします。
感染爆発時の新型コロナ感染症の課題の一つに、急変者への対応がありました。重症化の液性因子の最新の研究成果に基づく血液検査、Dダイマーなどの血栓要因の血液検査などをすべての患者に対して実施し、より科学的に重症化要因を把握する体制づくりも今後の医療に求められます。感染拡大時に自宅に留め置かれ、医療放置状態に置かれる現状を変える取り組みを具体的に構築することが重要です。
3. 10 万人あたりの全国標準並みの病院数の確保と医療機関の経営危機への防止を
第5波で医療危機、医療崩壊が起きましたが、このような中でも医療機関の統廃合が進められています。2018年の10万人当たりの病院数は3.8、神奈川県は47位の最下位です。東京都の4.9、埼玉県の4.8に比べても少なく、長崎県の11.3や高知県の17.7に比べればきわめて少ない数です。全国標準6.7とはいかなくても埼玉県並み4.8くらいの確保は必要です。この低い水準は、県民・市民の命と健康を守るといいながら、医療機関の統廃合、縮小が進められてきた結果です。とくに国、県、市立の病院は感染症だけでなく各種医療を必要とする県民・市民の安心安全の砦です。
また、公立だけでなく私立の大病院や地域の医院は地域の県民・市民の健康を守る重要な役割を持っています。とくに地域の病院は、病気や健康に関し地域住民が直接相談する機関となっています。第6波やインフルエンザの流行も想定される現在、先に要望した医療機関の設置に発熱外来や後遺症の診察が実施できる地域密着型で国内標準の医療設備を横浜市、川崎市、相模原市の北部地域、県内の各市町村などで設置し、第6波や新型感染症が十分できる医療体制(感染症専門医療従事者や医学部の細菌学専攻の研究者の育成など)の構築を要望します。
新型コロナなどにより病院の経営が危機も深刻化しています。至急、病院の実態を把握し、経営危機を防ぐため適切な援助と医療従事者の報酬の引き上げを再度要望します。
4. 保健所など行政機関の拡充を
感染症における保健所の役割が重要であることは新型コロナ感染対策で国民の前に明らかになりました。新型コロナの第5波では、政府の方針が変更され、原則自宅療養者となりました。自宅療養は「良質かつ適切な医療の提供」という感染症法の趣旨に反するものです。この自宅療養の方針は、救える命を救えず、多く死者を出す要因となってしまいました。
こうしたなかで、あらゆる業務が保健所に集中することになり、保健所業務の逼迫が大問題となりました。10年以前に厚生労働省の報告書で感染症専門医や保健所機能の強化が提言されたにもかかわらず、「効率化」と称し、削減されてきました。このような誤った方針を撤回し、保健所などの機関の充実と強化を求めます。とくに政令指定都市では、第1に、各区にある保健所機能が本庁に集中化され、支所が独立した機能をもっていないことは問題です。各区の保健所支所を独立化して機能強化し、地域の取り組みに積極的に取り組めるようすること。第2に、各区の各種医療機関との連携が図れる体制を作ることです。
保健所の独立した機能強化は、今後の感染症との取り組みの要となり、多くの命を救う砦となることでしょう。この点で、「自宅療養者がなくなることを防ぐ」をゴールとした墨田区の全医療機関との連携の取り組みは参考となります。
また、保健所は積極的疫学調査と検査により感染拡大の防止を図る機関であり、この体制の逼迫は感染爆発、医療崩壊の悪循環を生み出します。いまこそ保健所機能の維持強化のための人員と予算の確保をお願いします。
5.小中学校や高校、大学までの感染症対策と長期欠席児童の救済を
デルタ株の感染は若年層、小中学の学童・生徒まで感染を広げました。児童にまで医療を受けられない自宅待機者を出しました。
現在、緊急事態宣言が解除され、小中学校は対面授業が行われていますが、感染不安で欠席する児童生徒が多くいます。2020年度の文部科学省の発表によれば、神奈川県内では4386人と報告されています。
今年度はまだ報告が出されていませんが、昨年以上の長期欠席者が予想されます。昨年度から文部科学省ではその対応についての指針が出されていますが、その扱いはさまざまです。改めて欠席した児童への学習支援や、入試に不利とならないよう配慮を要望いたします。
大学生や専門学校生の生活も、感染拡大がおさまってきたとはいえ、アルバイトができないなど、昨年以上に困窮している大学生が多く出ています。支援団体などにより、食糧や、生理用品などの支援が行われていますが、各管轄大学や県内の大学への引き続き支援と援助、学費免除、奨学金の増額などの対策を至急実施するよう要望します。
第6波に向けては、新型コロナのワクチンと予防薬などの十分な確保とインフルエンザワクチンの確保をお願いします。
6.中小企業とへの引き続き支援と援助を
飲食店や宿泊業をはじめとする中小企業は、緊急事態宣言解除後、少しずつ平常を取り戻してきていますが、2年近くにわたる緊急事態宣言、まん延防止等重点措置により経営がきびしくなり、休業や廃業、倒産も増えています。国では持続化補助金、事業再構築補助金、サプライチェーン補助金などが方針として出されていますが、これらの補助金がスムーズに中小企業に対して支給され、活用されるようにしてください。また、雇用に関しても対策費が計上されていますので、中小企業で働く従業員の権利と雇用を守るための対策費早期支給と雇用対策を要望します。さらに、各種補助金のスムーズな支給が実施される体制強化を要望します。
以上6項目にわたる要求を早急に検討され、実施するよう要望いたします。
JSAかながわ幹事会
代表幹事 萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授)
事務局長 後藤 仁敏(鶴見大学名誉教授)
担当幹事 惣田 昱夫(元静岡理工科大学教授)
益田 総子(元ますだクリニック院長)
幹 事 飯岡 宏之(元横浜市水道局)
中野 広(元養殖研究所長)
浜田 盛久(海洋研究開発機構研究員)
古川 和彦(NPO 法人青年育成塾明日)
横尾 恒隆(横浜国立大学教授)
渡邊 良朗(東京大学名誉教授)
連絡先 横浜市中区扇町2丁目7番地 第2不二ビル
かながわ総合政策研究センター内
電話 080-1987-0994
後藤 仁敏
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